ギボン ライダーインタビュー 第3弾

2015/09/02

 

草刈 "93"   宏之

 

スラックライン界の自由人

 

元クライマーのスラックライナーは以外と多い。

ただ、その中で競技をしているとなると話は別だ。これまでの歴史を辿ってみてもクライマーにとってスラックラインは山に登れない日にロープを使って渡るというただの暇つぶしでしかなかったし、第一クライミングという遊びに夢中になった人間はそれ以外のことができなくなることが多いからだ。

黎明期からスラックラインに関わっている草刈は、始めた当時では誰もやっていなかったスラックラインに夢中になり、今ではほとんどクライミングをしていない。なぜクライミングの世界に没頭していた草刈がこれほどまでに夢中になっているかを探ってみた。

 

梅田スラックラインジャンキーズ(※1)

草刈がスラックラインを始めたきっかけは「周りにやっている人がいなくて、面白そうだったから」と振り返る。始めた当初は二人。スキルアップとして地元大阪で友人たちを練習した仲間は梅田スラックラインジャンキーズとなった。 最近では大会や各地でのデモンストレーションで多忙なイメージだが、東京に来る機会を利用して近隣にセッションしにいくなど、交流に積極的なのは、このチームで経験した「友達とセッションする楽しみ」を知っているからだろう。

大会仲間の下克也とのメンバー同士のセッション。

 

仕事人

草刈はただのスラックライナーではない。ライン設置からトリックの説明、解説までスラックラインにまつわる事柄はすべてこなすことができる数少ないライダーの一人。 最近ではラインを自分で張ったことがないライダーも少なくないが、草刈の場合は生え抜きのスラックライナー、張りたいところには大体張ってきたという自負から、トリックラインを始め、ハイライン、ロングラインなど通常のスラックライナーではほとんど触れることのないラインを張れる知識と技術をもつ数少ないライダーの一人でもある。いわゆる車は運転できるけど、車の中身は知らないようなドライバーがほとんどの車社会のようにこれからスラックラインもなってゆく中で貴重な存在になってきている。

さらに草刈の仕事に対して、アルゴアクティブ株式会社(※2)の代表の小倉はこう話す。「彼の仕事は本当に素晴らしい。イベントそのものだけではなく、終わったあとの現場や倉庫の整理まで丁寧で美しい。本当にラインに関してはどんなことでも対応してくれる。そしてイベントに関わっている人たちも一緒にハッピーにさせてくれる。お金があったらすぐにでも雇いたいくらいだよ。笑。」

ライダーだけではない草刈の一面は今盛況なスラックラインの世界を影で支えている。

 

日本オープンでの優勝

草刈が本格的に活躍し始めたのは2013年のギボン日本オープンスラックライン選手権大会で優勝してから。当時日本で行われる大会はギボンカップ(※3)とこのギボン日本オープンスラックライン選手権大会(※4)だけで、ルールはWSFed(※5)のルールを踏襲していた。そして世界のルールが変わった2013年。これまでの大会はどちらかというとインパクト重視だったのに対して、2013年からはさまざまな細かいトリックはバリエーション、平均的な高さや難易度を評価するようになり、見た目よりも難易度、バリエーションの豊富さが求められることとなった。しかしほとんどのライダーがこのルールに合わせることなく、演技をする中で草刈は冷静にトリックを組み立てて、初優勝を飾っている。 こうして草刈はバックフィリップさえできれば勝てる時代を終焉させ、新たなトリックの世界へと導いていった。

草刈の活動の幅を広げるきっかけとなった2013ギボン日本オープンスラックライン選手権大会での優勝。

大技は得意ではないが、勝つための必須条件。

 

トリックの引き出し

草刈はスラックラインを始めたときから、人とは違うことをやろうと決めていたらしい。

USJでの練習でも、海外からうまいライダーが来て刺激されて、マネするだけではなく、「これできるんとちゃう!ってとにかくやってみる。できなかったら、少し考えて自分流にアレンジしちゃうこともある。だってまだ技そのものに名前がないんだから。」

他の人がやらないとに興味がある草刈らしいスタイルは同じギボンのチームメイトでもあるGAPPAI(※6)同様、現在のトリックラインのベーシックトリックの一つ「バットフロントフリップ※7」を編み出していている。

フィジカルにも強い草刈の強みはイメージトレーニングと集中力。練習量が少ない割にはトリックのメイク率は高い。

 

ハイライン

スラックラインにはいろんな乗り方がある。なんといっても場所や長さを変えるだけで、その乗り方が変わってくる。「ハイラインは文字通り、高いところでやるんだけど、怖さっていうのがでてくるので、いつもとは変わってくる。それを自分で克服して達成することが気持ちいいんだけど、日本にはなかなか場所がないし、準備も大変。ただ、トリックができるっていうんじゃなくて、別の精神的なものであったり、挑戦するような気持ちが必要なんだ。スラックラインを始めたときみたいに、誰もやったことのない高さや場所でやるってことは意味のあることだと思っているよ。」

2015年雑誌のイベントで訪れた小川山での一コマ。クライマーの聖地ともいうべき場所でライン上に寝そべる草刈。

アーバンラインでハイラインをメイクする草刈。下はコンクリートという人工物でのハイライン。

 

草刈にとってのスラックライン

今では毎週のように大阪と東京を行き来しイベントをサポートし多忙を極める草刈。

「今は忙しすぎてあまりはっきりと先のことは考えていないけど、これからは大会じゃなくていろんな形でスラックラインに関わっていきたいと考えているよ。競技やイベント、まだまだスラックラインの可能性は広がると思うし、もっといろんな人にやってもらいたいと思っているよ。ほんと、他にはないフィーリングだからね。でもスタイルは大事にしていきたい。だってまだまだスラックラインって「これだ!」って形がないんだから。これからまだまだ進化してゆくと思うからね。」

黎明期を一線で駆け抜けようとしている草刈の視点は我々が考えているより遥かに先をみている。スラックラインの未来を支えるのは彼のような一線を知った職人ではないだろうか?

神奈川県・鵠沼海岸でのヒューマンアンカーライン(※10)でのハイジャンプ!

2013年のギボンツアーでギボンチームが初めて持ってきたロングライン「フローライン(※8)」に挑戦する草刈。

旅の醍醐味。ローカルでのスラックラインスナップ。後ろに見えるのは地元大阪のシンボル「通天閣」

2014年アメリカ遠征での一コマ。後ろのプロモーションバンにはAZUCAN(※9)が描かれている。

クライミングのついでに、奈良県・御手洗渓谷の外岩スポットの傍で川でのウオーターライン。

2014年アメリカ遠征での一コマ。ライダーの中では最年長というのもあり。年下ライダーからの信頼も厚い。

短時間でも集中できるのが草刈の武器。

いつでもユニークさを忘れないのも草刈のスタイル。

 

※1、梅田スラックラインジャンキーズ:

草刈 宏之、下(シモ)克也を擁した関西スラックラインチーム。梅田でスラックラインはやらないのだが、隣駅だったのと分かりやすい地名として梅田にしたという。

※2、アルゴアクティブ株式会社: ギボンスラックライン日本総代理店

※3、ギボンカップ:日本唯一のスラックラインシリーズ戦。JSFed公認大会で全国にて年4-5回実施されている。

※4、ギボン日本オープンスラックライン選手権大会:日本最大にして最高峰の公式大会。世界スラックライン連盟ともリンクしており、毎年1回、海外の選手が招聘されている国際大会。

※5、WSFed(World Slackline Federation) : 世界スラックライン連盟。

※6、GAPPAI (大杉徹):日本人唯一ワールドカップで優勝している男。ギボンスラックライングローバル所属

※7、バットフロントフリップ:バットバーンズから前回り1回転してバットバーンズで着地するトリック。現在のトリックの大会ではほとんどの選手が行うトリックラインにおけるベーシックトリックのひとつ。草刈によって開発されYOUTUBEにて世界に広まった。

※8、FLOW LINE : ギボンがプロディユースするロングライン用ライン。15mでキットバージョンも販売されているが、本来はロングライン用に軽量化した幅1インチが特徴のライン。

※9、AZCAN :我妻吉信。ギボン初の日本人ライダー。初めてバックフィリップを大会で披露し、ドイツのワールドカップにも出場した日本人ライダーでフォトジェニックなことからファンも多い。)

※10、ヒューマンアンカーライン:ラインをどこかに固定するのではなく、人間の手によって固定するラインパフォーマンス。5-6人以上の人手で、主に固定物がないストリートやビーチで行う。

 

プロフィール:

1977年生まれ。大阪府出身。

 

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ギボンスラックライン

 

プロフィール:

元クライマーがスラックライナーになるケースが多い中でも、大会を選ぶライダーは稀である。そんな中、大会を選び、日本最高峰の大会で優勝を飾ったこともあるのが草刈である。大杉同様に”スパイラル”というメジャートリックはもともと彼のオリジナル。温和だが、勝ちに対する執着がなければ、20台前半がひしめき合うこのスポーツでは生き残れない。スラックラインのいろはを知り尽くした草刈の目標はまだまだ先なの知れない。

好きな言葉: Happy Slackline

好きな食べ物: 唐揚げ

 

主な大会成績:

・WSFed2014世界ランキング13位

・JSFed2014日本ランキング3位

・JSFed2013日本ランキング2位

国内大会

・Gibbon Cup 2014 愛知 優勝

・Nippon Open Slackline Championship 2013 優勝

国際大会

・GoPro Mountain Games in Vail.CO.USA WSFeD SlackLine World Cup 2014 出場

・King of Slackline 2011: 3位

・King of Slackline 2010: 3位